姓名覚醒を経て
「藤間 美雅」の名を守ることで、私は「妻・母・師匠・家元」としての役割を果たしてきた。けれど、そのすべてにおいて「藤堂 富美子」という私を置き去りにしていたこと、姓名覚醒を経てようやく気づけてきた。またさらに・・・。
主人の位牌が倒れた時、驚きとともに何かが流れ込んでくるような感覚。 不思議と、怖さはない。
「ありがとう」
その声が、彼のだったのか、定かではない。ながらも確かに、心の奥で何かが融けたのを感じた。龍先生から「ご主人様が肝臓ガンで亡くなられたということは、溜め込み続けてきた感情整理が追いつかなかったから」と言われたことが鮮烈なショックだった。
主人が語りたかったこととは?ずっと考えていた。まさに位牌の件と関連があるとしたら、タイミングから考えても『過去の私への手紙』とつながっているに違いない。
主人は、養子として婿入りしてくれた。確かに私は支えてもらっていた。私は主人に何を貢献できたのだろう?主人へのありがたみなんて、空気のように薄く感じていた。相応に私への負担がかからないよう、どれだけ配慮してくれていたことか。今さらながらに申し訳なさと感謝の気持ちが湧いてくる。
私は多くの愛を受けていたのだ。気づけなくてごめんね。これからは、「藤間 美雅」「藤堂 富美子」だけでなく、夫「藤堂 徹」とも一緒に生きていこう。
その夜、娘 雅子が台所で一言ポツリと呟いた。
「お母さん、最近ちょっと柔らかくなった気がする」
その言葉に、思わず涙が滲んだ。ああ、私は、ようやく「美雅」ではなく「富美子」として、母に戻れている──そう感じた。ようやく自分を許せた実感を得たのだ。

弟子との対話
翌日。稽古場に顔を出すと、弟子たちが一斉に立ち上がり、いつものように一礼をしてくれた。
「皆さん、今日は少し時間をいただけますか?」
弟子たちの表情が引き締まる。
「私は、これまで『藤間 美雅』として生きてきました。今ようやく『藤堂 富美子』としても立っていたいと考えるようになりました。名前に込めた願いと、これからのあり方を、私自身で選び取っていきたいのです。よろしいでしょうか?」
静寂の中で、1人の弟子が声をあげた。
「先生・・・私たち、ずっとそのお言葉を待っていたんです。先生お1人に重圧を背負わせてしまっていることを申し訳なく感じていました。だからと言って、行動に移せず困っていたんです。先生が切り出してくださり、今初めて道が照らされました」
その言葉に、張り詰めていた何かがほどけた。私は「誰も後継者がいない」と思い込んでいた。弟子たちにしてみれば、私が何もかも尽くしてきたがゆえに、関われる限界を感じていたのだ。
本当に申し訳なく感じた。私の勝手な独りよがりで、「一生懸命頑張っているのは私だけ」と感じていた。ゆだねきれなかった器の狭小さを恥じた。
「ありがとう。これからは一緒に、もっと自由に、舞を表現していきましょうね。違和感や改善等のご意見、どんどん出してください。そこにこそ発展のチャンスがあるかもしれません。」
微笑みながら深く頭を下げた。本当にありがたくて、涙が込み上げてくる。
許しとつながりの修復
その数日後、長年距離を置いていた姉から、珍しく手紙が届いた。
「法事ではありがとう。突然だけど母の着物を見ていたら、ふとあなたのことが気になって」
封筒の中には、母 雅麗が若い頃に愛用していた帯が同封されていた。
許してくれたのかもしれない。いえ、きっと私自身が、姉との間にあったわだかまりを解放したいと、できると思えてきたのだろう。「藤堂 富美子」として、覚悟の表れなのかもしれない。
「許すとは、ニュートラルな状態です。『してもいいけど、やらなくてもいい。どうぞお好きなように』と言われているんです。要は『何があろうとも受け入れる覚悟』なんです」と語られていたのが脳裏に浮かんだ。
今までずっと許したくも、なぜ許せなかったのか?そもそも「自分を許す」とは、自分の中の何をどうすることが「許した」となるのか?言語化と重要なことの再定義が、こんなにも重要だったのかを身をもって実感できた。
思えば、娘からの一言。「それって、お母さんの満足よね?」まさに青天の霹靂だった。それからというもの、何をやっても失敗する気持ちが芽生えてきた。蟻地獄の巣へ引き込まれていくような恐怖を感じたからこそ、真紀子さんと出会えた。
名から命の継承
「名前で生きる」とは、単に与えられた名を守ることではない。 込められた意味を、自らの意思で更新していくこと。ここを全く理解できていなかったことに気づけたのは、人生の大転換点だったと噛みしめている。
「美雅」は、祖母と母が託してくれた大切な芸名。 そこに私の意志が加わった時、ようやく「名の継承」ではなく、「命の継承」に変わるのだと気づけた。
今ようやく私は、その更新の第一歩を踏み出せたような気がしている。
「姓名覚醒 あなたバージョン」では、どんな展開が起こるのでしょう?