夜の厨房。母の特集ページを、何度も読み返している。「重ね煮」という調理手法について、他の文献も取り寄せ研究してきた。陰陽五行論を交えた「鍋の中の宇宙」という感覚等、理解が深まっている。重ね煮調理を経て、天日干しによって、メニューへの活用度が広がっていく。

比較検証
母からの小瓶を開ける。重ね煮の干し野菜。根菜もきのこも形は崩れ色は沈み、野菜かどうかも分からない。母が作った小瓶の野菜と、本を読みながら作った私の野菜。違いを比較検証している。
言葉にできない違和感。どれも違う。私の野菜の味は、はじめ強いが、残らない。小瓶の野菜は、静かながら皿を置いたあとも残る。説明できない。もう一度、温度を変える、違う。塩を一粒、崩れる。どうやっても、外れる。
スタッフの仲間にも試食してもらったが、全員が迷わず小瓶を選ぶ。原因は、配分が読めないことではなかろうか?理由は、野菜の状態を知らないからだ。
・収穫時の水分や熟度
・土の硬さ
・日照時間や強さ
判断できる前提が、あまりに足りない。
手帳を開き、母の畑へ行く予定を組む。教わるためではない。条件を知るため。「母の味」ではなく、母が判断し決めていた環境をつかむため。
瓶を閉じる。まだ自信はない。だからと言って逃げない。私が追求しているのは、再現ではない。勘に頼らない。分からないから、確かめる。母がやってきたことを私の生き方で消化するのだ。
誠で、魂で
本場パリで、2世代にわたって3つ星を守り続ける本物たち。あの完璧な張りつめた厨房。1mmや1秒の狂いも許さない皿。まさに怪物、巨匠。
「私なんかじゃ無理」何度も思った。それでも、包丁は置かなかった。あきらめきれない。基準は3つ星。お客様に想像を超える感動を提供すること。評価ではなく、自分の誠で、魂で受け決める。これでいい。まだ届いていないだけで、嘘は混ぜない。
失敗ではない。まだ設計途中なだけだ。瓶を閉じる。畑へ行く。道はまだない。ならば、心の声に寄り添いながら創っていこう。