ZOOM交流会後、個別に日程調整し、個別にお会いすることに。
「感謝を具現化・・・?」
彼の言葉が頭の中でぐるぐると回る。結婚して姓が変わることに、そんな意味があったなんて考えたこともなかった。私はただ、夫と共に生きると決めただけだったのに。
「佐藤真紀子という名前を生きることに、どんな影響があったと思いますか?」
龍先生の問いに、戸惑いを隠せない。初めて考えた視点。確かに旧姓のままでいたら、私は違う人生を歩んでいただろう。
「でも・・・それって、偶然じゃないですか?」
思わずそう口にしていた。名前が運命を決めるなんて、ちょっと信じられない。
「偶然かもしれません。逆を言えば、どんな偶然にも必ず意味があるんですよ。佐藤という姓になったことで、あなたの生き方に影響を与えた部分はないですか?」
「・・・そう言われると、分かりません。ながらも、夫と結婚してからはずっと『支える側』にいた気がします。」
「なるほど。佐藤の『佐』は補佐の意味もありますね。」
「補佐……」
まるでパズルのピースが少しずつはまっていくようだった。私は、家族を支えることに意識を向けすぎて、自分自身を顧みることが少なくなっていたのかもしれない。
「それじゃあ、旧姓の『中田』だったころの私は……?」
「中田には『中心』という意味も含まれます。あなたは昔、もっと自分が主役だったのでは?」
その言葉に、胸がチクリと痛んだ。
確かに、学生時代は自分のやりたいことを優先していた。ファッションが好きで、アパレル業界に憧れていた。それなのに、いつの間にか自分を脇役にしてしまっていた。
「かつ真紀子の『ま』とは、名前の字の『真』もありますが、『魔が刺して』の『魔』とも解釈できます。ポイントは『間の使い方』です。真紀子さんは、どんな生き方をしてきたんでしょう?」
「つまり、私は結婚して周囲の願いに応える、『支える側』の人生を選んだんですね・・・。」
「そうですね。あえて強調しますが、悪いわけではありませんよ。大切なのは、その選択や経験をどう生かすかです。」
龍先生は柔らかく微笑んだ。
「真妃子さんが名前に興味や疑問を持ち始めたということは、新しいステージに移るタイミングなのかもしれません。なぜなら、名前とは存在価値そのものだからです。」
「新しいステージ・・・?」
「今までの『佐藤真紀子』としての生き方を振り返りながら、これからの『佐藤真紀子』をどう創っていくか?そのヒントが、名前の中にあるのかもしれませんよ。」
私は深く息を吸い込んだ。
「自分の人生を、自分で決める・・・?」
「自分の人生を、自分で決める」心にじんわり沁み入る。ずっと、誰かのために、家族のために生きてきた。でも、これからは——。
「私は・・・私自身のために、動いてみたい。」
龍先生が満足げにうなづく。
「それでは、次に進みましょう。」
こうして、私の人生の新たな扉が、またひとつ開かれた。