沈んでいる言葉たち〜早乙女芽衣子さん物語5

芽衣子さん、娘の後追い自殺というステージから、少しずつ気づきを得て成長中です。

言葉の力の瓦解

机に向かい、私は今日もノートを開いた。開いたまま、何も書かれていないページと見つめ合う日々。

昨日も、その前も、私はここに座り、ペンを持った。けれど、文字にはならない。言葉にしようとするたび、心の奥が疼いた。どこから手をつけていいのか分からず、ただ無言のまま、時間だけが過ぎていく。

かつて私は、言葉の力を信じていた。演説原稿、声明文、記者会見・・・。どれも周囲を納得させ、支持を集めるための「整った言葉」だった。音を立てて瓦解していくのが分かる。

今は違う。誰にも見せる必要のない、自分のための言葉。自分の命に問いかけ、自分にだけ応える言葉。そんな言葉を、私は一度も使ったことがなかったのだ。

優花のKindle

沈んでいる言葉たち〜早乙女芽衣子さん物語5

遺品の中に、Kindle端末があった。最初は充電も切れ、電源も入らない。ふとした気まぐれで充電ケーブルを挿し、起動させてみると、ロックもされていない。おそらく、パスワードすら設定していなかったのだろう――。それは、単なる操作上の話ではなく、優花が「読んでいた証」を、私に手渡してくれたようにも感じる。

私の指先は、なぜか躊躇なく画面を滑らせている。ダウンロード済みのタイトルが一覧で並んでいる。その中に、見つけてしまったのが・・・。

『自分の名前を愛する力』著者:龍 庵真

優花のKindleに、一冊の本が表示されていた。画面を開いた瞬間、なぜかそのタイトルに目が釘づけになる。

著者は、見知らぬ名前だ。それでもなぜだか、心臓の奥がヒリつくのを感じる。この本を、優花は読もうとしていたのだ。なぜ読もうとしたのか?何を期待してページをめくったのか?娘は、名前に何を見出そうとしていたのだろう?

冒頭に書かれていた「⾃分の名前を愛していますか?」

たった一行なのに、胸が苦しくなった。あの子が「名前って、なに?」と問いかけた意味が、さらに深くのしかかってくる。この言葉は、あの子に届いていたのだろうか?さらに重荷にしてしまっていたのだろうか?

先を読めず、Kindleを閉じた。しばらく動けない。

はじめの一文字

あの子が幼稚園の頃、「どうしてゆうかって名前なの?」と尋ねてきたことがあった。訊かれて返答したことは覚えているが、何と返したか思い出せない。それだけ上の空だったことが情けなくなる。

娘は、この名前を胸に、何を感じていたのか?どうして誰にも言わず、黙ってこの本を読んでいたのか?「名前って、なに?」の答えは得られなかったのか?知りたいのに、一歩を踏み出せない。過去の時間を取り戻せないことへの悔恨と、癒しきれない自責の複合感情による残酷さに、打ちのめされる。

今日は、ほんの少しだけ違った。静まり返った部屋の中で、ふと風が通り抜けた。閉め切っていたカーテンの隙間から、夏の陽が差し込む。優花の笑顔をおさめた写真が、光を浴びて微かに揺れていた。

「・・・・・ごめんね」ようやく声が出た。そして、震える手でペンを持ち、ノートの隅に書く。

「優花」

今まで、どれだけこの2文字の価値を感じようともしていなかったのか、よく分かった。気づけた感謝の気持ちと、気づけなかった今までの悔しさ、今さら遅いが「優花」への尊さを味わいきる決意。そんな思いを込めた。

沈んでいる言葉たち

私は、何もかもを正しく理解できるとは思っていない。今言えることは、自分の中に沈んでいる言葉たちを、少しずつでもすくい上げていきたい。

優花がこの本をダウンロードしたのは、どんなきっかけだったのだろう?最後まで読めたのだろうか?途中で閉じたのだろうか?何を思い、どう受け止めたのだろう?

分からない。しかしそれを問いとして持ち続けることはできる。

それが、今の私にできる唯一の弔いだ。ようやく始まった――あの子の「名前って、なに?」と問いかけた意味を追求するという旅の、ほんの第一歩なのかもしれない。

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#感謝の気持ち
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投稿者:

RyuAnshin

Universal Flow Therapy 健創庵 龍 庵真(りゅうあんしん)と申します。
 少なくも20万人超の名前と向き合わさせていただいた経緯から、Google検索より速く開設できます。 統命思想というオリジナル事業を立ち上げ、天命に生きる方を輩出するために今を生きています。 絶対に目標達成したい方へ、未知の可能性を実感の自立具現化サポート。 
 
 15才で自衛官となり、出身地の長崎よりも首都圏での生活が2/3となりました。 
 私自身のセルフイメージが強烈に低く、どんなに素晴らしいことをしても、悪い意味でバランスをとるような出来事が起きていました。 マジメに生きようともがきつつも、運命の荒波に翻弄され続けた期間は、30年を超えます。 
 今まで一貫してお伝えしてきたのは、 本当の癒しは、ご自身にしかできません。 
 「自立具現化コーチング」という独自の理論により、 ・過去と未来を今ココに集約させ ・究極のパートナーからアドバイスを受ける ・本当に望んでいる思いを発信源に、過去の記憶を癒す 方法を編み出しました。 
 どうぞよろしくお願いいたします。

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