富美子さんの場合は以下のとおりですが、あなたの名前にはどんな人生が眠っているのでしょうか?誰しも与えられた名前で人生を始めますが、名乗ってきた名前で人生を語りがちです。
本名と芸名──2つの名前を生きてきた1人の女性。自分の「本当の名前」と向き合った時、何が起きたのか?あなたご自身の名前の意味を見つめ直すヒントとして、この物語をお読みいただけたら幸いです。

芸名と本名
当日。ZOOMの画面越しに、龍 庵真と再び顔を合わせた。
「ご無沙汰しております。改めまして、本日は対話の時間をありがとうございます」
礼儀正しく挨拶を交わすと、彼はごく自然に問いかけてきた。
「こちらこそありがとうございます。まず今、富美子という名前を目にした時、どんな印象をお持ちになりますか?」
少し間をおいて、語り出せた。まだ富美子への違和感を拭えない。
「正直に申しまして・・・富美子は、公的な書類にしか存在していないような感覚があります。私は15歳で名取となり、藤間美雅(ふじまみやび)という名をいただきました。以降、すべての稽古、舞台、弟子との関係──人生のあらゆる場面で、美雅として生きてきましたから」
彼は穏やかに頷き、続けた。
「なるほど。富美子は、現実世界における公的名義ではあるが、ご自身の人生の物語においては登場してこなかった、と」
「はい。自分でも、使わないうちに他人行儀な名前になっていたのだと思います。親がどんな願いを込めてこの名前をくれたのかも、実は知らないんです」
「そうでしたか。では、美雅の方が呼ばれ慣れていますか?」
「はい。確かにそうなんですが、今は富美子でお願いいたします。娘からの一言がきっかけで、美雅を生きることに疑問を抱くようになりました。富美子の生き方を追究したいです。」
「名乗ってきた人生」と「名付けられた命」
龍先生は少し画面から視線を外し、言葉を探すように間を取ってから話し始めた。
「名乗ってきた名前は、美雅さんが努力し、誇りと責任をもって生き抜いてきた証です。一方、名付けられた名前は、たとえ意識されなくても、生まれた瞬間に与えられた命(めい)の音でもあります。これは人生の『初期設定』として、富美子さんの生き方を無言のまま支え続けてきた可能性があります」
「初期設定、ですか・・・?」
「はい。富美子という名前には、富──豊かさの象徴と、美子──美しさの受容という2つの要素が含まれています。しかも子で終わる名前は、時代的背景から見ても女性らしい理想像を内包させられてきた側面もあるんです。
かつ総画の53は、ビジョニストと名付けており、理想を語り実現させていくことに生きがいを持たれています。富美子の24画は、おもてなすというホスピタリティ性。とてもいいバランスですよ。」
富美子は、画面越しの自分の姿をぼんやりと見つめながらつぶやいた。「・・・そんな意味があったなんて・・・・・・」
「極め付けは『と』です。『とうどうとみこ』という7つの読みの中の3つ。これには意味があると思いませんか?
「言われてみればそうですよね。あまりに当たり前で気づきませんでした。」
「はい。『と』の意味は、
・見えないものを見える化させ、測る
・とどまり、定着する。落ち着く
・切り替える
等があります。解釈次第でまだまだ無尽蔵につながりますけどね。だからこそ、人生は解釈次第だと結論づけきれるんです。」
「なるほど!」
「富美子さんは、名前の由来を全く知らないんですよね?私も同じで、父方の祖母が名づけて理由を語ることなく亡くなりました。だからこそ、私自身で再定義することにしたんです。そういった意味では、今が絶好のチャンスかもしれませんね」
「すごい・・・・・・・・・!」
私の「これでいい」
「おそらく美雅さんは、藤間という家系や流派を継承する重圧と誇りを同時に背負ってこられたのでしょう。15歳から芸名で生き続けるということは、本来の人生の選択肢が閉じられていたという見方もできます」
「はい・・・。気づかないうちに与えられた道を歩いてきた気もします。けれど、美雅であることに誇りは持ってきたつもりです」
「もちろん、それは素晴らしいことです。でなければ、TV出演なんてあり得ないでしょうから。今お伝えしようとしているポイントは、その誇りの奥の富美子です。まだ使われていない富美子の資質や視点が眠っているとしたら? それを今、丁寧に向き合ってあげることが、富美子の承認『これでいい』なんです。それは美雅の承認にもつながります」
「初めて富美子という名前を、身近に感じた気がします。私の中にいながら、遠い別人でしたから。」
「富美子さん。明らかに今までと違った声。分かりますか?」
「え!?そうなんですか?」
「そうですね。明らかに違っています。今までのお客様方でも、私とご縁する中で例外なく声が変わっていかれるんです。ずっと不思議でしたが、合点が入ったのが、周波数。声も周波数というエネルギーでできています。ということは、相応の気づきがあったんでしょうか?」
「はい。おっしゃるとおりです。富美子と美雅、2つの名前で1人なんだと理解できました」
「そうでしたか。よかったです。私も龍 庵真というビジネスネームを名乗っています。夢で自己紹介していたことがきっかけで名乗ることにしました。広報的役割を担っており、本名では見れない世界を味わうためにあると考えています。本名は錨であり、総本部のような存在。龍 庵真は実務的な本部なので司令部というとらえ方をしています。」
「そうなんですね。では私の富美子と美雅も、同じようにまとめた方がいいでしょうか?」
「そういえば似たような位置付けですよね。富美子さんがいいと思うように活用してください」
私の中で、「富美子」と「美雅」という2つの名前が、一本の線でつながり始めていた。