
朝5時、けたたましく鳴る目覚まし音の中、起床。習慣となっているコーヒーを淹れ、無言で新聞を広げる。外はまだ薄暗い。経営者になってから、まだ誰もいない静かな朝の時間だけが、唯一の心の余裕だ。
ながらも最近は、その静寂さえも不安と恐怖で満たされている。コロナ禍を境に、売上が急激に落ちてしまっているのだ。離職率もどんどん上がり、経費が嵩む一方だ。最大の問題が、悪化の原因を全く把握しきれていない点。前向きにポジティブに積極的にと考えれば考えるほど、得体の知れない暗闇に覆い尽くされてしまいそうになる。
「このままで大丈夫なのか?いったい何からどう手をつければいいんだろう?」
私は田中 健太郎50歳。10年前に立ち上げた小規模建設会社の代表取締役である。最初は情熱と勢いで乗りきれたが、ここ数年は業績が伸び悩み、競争の激化や人手不足が深刻化している。売上が思うように上がらず、コスト削減のために苦渋の決断を迫られることも増えてきた。
半年後には長女 恭子の結婚式で、心から祝ってやりたい。長男 健太が1浪してようやく大学に。入学資金を出してやりたいが、捻出が本当にキツイ・・・。妻 恵美子は、家計を考えてパートを始めてくれている。我が家も会社も、これからどうなってしまうのか、考え始めればキリがない。
揺らぐ自信と経営者の孤独
会社の資金繰りを考えながら、ノートに数字を書き出してみた。・・・思考がまとまらない。「知覚動考(ともかくうごこう)」と励まされた恩師の言葉を胸に、今まで必死にもがいてきた。
「このままじゃダメだ・・・。だからと言ってどうすれば・・・・・・・?」
経営者としての自信は、確実に揺らいでいる。以前は仕事を楽しんでいたはずなのに、今は何をやっても空回りしている気がする。何をやっても失敗してしまいそうな気持ちが芽生えてくる。社員のモチベーションも下がり、会社全体に停滞感が漂っている。
誰かに相談したい。しかし、経営者という立場上、弱音を吐く相手がいない。妻には余計な心配をかけたくないし、社員には不安を与えたくない。友人に話したところで、結局「頑張れ」としか言われないのは目に見えている。
「私は、ひとりで何とかしなければならない・・・・・・・・・・・・。」
そう思えば思うほど、追い詰められていく。底なし沼にハマって、もがくほどにズブズブ飲み込まれていくようだ。抜け出す術が見えない。負のループの中で、もがき続けていた。
光を求めて
ふと、机の上に積まれた書籍に目をやる。最近、自己啓発書や経営の本を何冊も買った。しかし、どれも最後まで読めていない。
「答えは、本当にここにあるのか・・・?」
本を手に取り、パラパラとページをめくる。どの本にも「成功者の習慣」や「リーダーのマインドセット」等が書かれている。それさえも実践する余裕がない自分に気づき、ため息・・・・・・・・・・。
「もう一度、ゼロからやり直すしかないのか・・・?」
そう考えた瞬間、スマホが震えた。画面を見ると、経営者向けのセミナーの広告が表示されていた。
『負のループを断ち切る、経営者のためのセルフブランディング講座』
なぜか、その言葉が胸に刺さった。
「負のループを断ち切る・・・」
まるで、自分のことを言われているようだった。スマホの画面をじっと見つめ、意を決して申し込みボタンを押した。
「何かを変えなければならない。このままじゃ終われない」
そう心に誓いながら――。