龍先生との対話を終えて数日が経った。頭の中で彼の言葉が何度もリピートされる。
「自分の人生を、自分で決める」
ずっと誰かのために、家族のために生きてきた。でも、これからは——。
店のカウンターに立ちながら、私は深く息を吸い込んだ。
「私にできることは何だろう?」
長年アパレル業界に携わってきた。お客様のニーズに寄り添い、洋服を通して自信を持ってもらうことに喜びを感じていた。ふとした瞬間に思うのは、今の私は本当にこれで満たされているのか?という疑問だ。
「私は、もっと自分の人生を生きられるのでは?」
龍先生の言葉が、その問いに強く響いてくる。
今さら、新しいことを始めるのは
そんなある日、1人の常連客が店を訪れた。
「真紀子さん、ちょっと相談があるんです。」
40代後半の女性、奈美さん。彼女は長年専業主婦をしていたが、最近になって自分で何かを始めたいと考えるようになったと言う。
「でも、何をすればいいのか分からなくて・・・。今さら、新しいことを始めるのは遅いんじゃないかって。」
その言葉に、私はハッとした。まるで数日前の自分を見ているようだった。
「そんなことないですよ。」
私はゆっくりと奈美さんの目を見つめた。
「私も最近、自分の人生をどう生きるかを考え始めたばかりなんです。だから、その気持ち、すごく分かります。」
奈美さんは驚いたように目を丸くした。
「真紀子さんでも、そんなことを考えるんですか?」
「ええ、そうなの。最近気づいたんです。いつからでも、自分を取り戻せるんだって。」
人生の新たな挑戦へ
私は店内を見渡した。
「例えば、この服を選ぶ瞬間。自分に似合うものを見つけて、心が弾む。その小さな一歩が、大きな変化につながるんです。」
奈美さんはしばらく考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「私も・・・まずは、自分の好きなものを見つけるところから始めてみようかな?」
その言葉を聞いて、胸の奥に温かいものが広がった。
「そうよ!まずは最初の一歩よ。」
そう。私も、自分を取り戻すための一歩を踏み出そう。今がすごくチャンスな気がしている。奈美さんを見送りながら、私は心の奥に新たな決意が芽生えていくのを感じた。
「次は、私の番だ。」
そうして、私は人生の新たな挑戦へと歩みを進めることを決めた——。