芽衣子さん、いよいよ新ステージです。
導かれた扉
玲子ちゃんから送られてきたメールを、私は何度も読み返した。コミュニティの代表者、佐々木さんの連絡先と、玲子ちゃんからの温かいメッセージ。胸の高鳴りは、優花との再会を果たせたかのように、私を突き動かした。意を決し、佐々木さんに連絡を入れた。
数日後、コミュニティ「いのちの灯(あかり)」の集会に初参加。会場は、市内にある小さな公民館の一室。緊張で手が震える中、扉を開けると、そこには十数人ほどの男女がおり、自然な円形に椅子が置いてある。皆の顔に共通しているのは、私と同じ、深い悲しみを抱えている影。
誰かが息を呑んだ気配がした。前県知事という、毎日のようにTV等で見ていた顔が、突如目の前に現れたのだ。辞職の理由は、あえて公表していない。「なぜあなたが?」と不可思議に感じるのは当然かもしれない。そんな中、意図的に気づかないふりをした。
「こんにちは。よくいらしてくださいましたね。ありがとうございます」会の前に声をかけてくださった方がいた。玲子ちゃんのお姉さんの敦子さん。電気工事の職務中に高電圧を浴びる事故で、一瞬の出来事だったそうだ。2姉妹の母として立派に育て上げ、今では5人の孫がいるという。
魂の響鳴
佐々木さんの温かい司会で、集会が始まった。 「今日は新しい仲間が来てくれました。早乙女芽衣子さんです」 皆が温かい拍手で迎えてくれた。その優しさに、恐縮さが緩んできた。「私はここにいていいんだ」と認めてもらえているのが伝わってくる。
集会は、形式ばったものではない。各々が自分のタイミングで、胸の内を語るだけ。最初に口を開いたのは、高校生の息子を病気で亡くしたという女性。彼女は、息子の死を「無意味なこと」だと考えていたと、震える声で語った。「ここで皆と話すうちに、彼の命は私に、痛みに寄り添うという使命を与えてくれたんだって思えるようになったんです」
次に話した男性は、交通事故で妻を亡くしたという。彼は、後部座席で眠っていた娘と助手席の自分が助かったことに罪悪感を抱え続けていた。「妻が命をかけて、私たちを守ってくれたんだって思うようになりました。娘と生きることが、妻への一番の供養なんだって」
彼らの言葉は、私の胸に深く突き刺さった。それは、龍先生が教えてくれた「魂の願い」や「昇華」という言葉を、彼ら自身の言葉で語っているようだった。私も、この人たちと同じなのだ。同じ痛みと、そこから見出した希望を抱えているのだと、心から感じた。
再出発の灯
私の番が回ってきた。私は深呼吸をし、ゆっくりと話し始めた。優花の自殺で県知事という役職をやめざるを得なくなってしまったこと、後追い自殺を考えたこと、そして龍先生との出会い。優花のメッセージを伝えると、皆の目が涙で潤い、鼻をすする音が部屋中に響き渡った。それは、同情の涙ではない。皆の魂が、深く共鳴している証拠のように感じた。
「優花の死を、私はただの悲劇では終わらせません。この経験を、誰かの救いにつなげたい。私は、優花との再出発を、この場所で始めたいと思っています」
私の言葉に、皆が拍手しながらうなずいてくれた。それは言葉以上の温かい肯定だ。私は、1人ではない。ここに、私の新しい居場所がある。そう確信した。

集会が終わり、私は佐々木さんに声をかけられた。 「芽衣子さん、あなたの言葉には、大きな力があります。ここ『いのちの灯』で、あなたの経験を必要としている人がたくさんいます。もしよろしければ、この活動を一緒に広げていきませんか?」
私は、優花との約束を胸に、勇気ある一歩を踏み出す気持ちでうなずいた。それは、私の「自己信頼」という種が、芽を出し始めた瞬間なのかもしれない。再出発の灯を掲げきれた安らぎを胸に秘めながら。