崩れる朝〜堺歩美さん物語10

崩れる朝〜堺歩美さん物語10

残響

朝。目が覚めても、昨日の感覚が残っている。美奈さんの「届く声」が、頭に鳴り響いている。顔を洗うが、鏡は見ない。キッチンに立ち、コーヒーを淹れる。音だけが響く。

足音。直美が来る。

「おはよう」

「・・・おはよ」短い。続かない。パンを焼く。皿にのせる。いつもの動き。

「今日、何時に出るの?」

直美がかすかに引きつり笑う。「ママらしい」

鼓動が止まる。「どういう意味?」

「そのままだよ。ちゃんとしてるフリしてるだけでしょ」

露呈

空気が変わる。

「フリって何?」声が少し荒強くなるのが分かる。

「いつもそうじゃん。言いたいこと言わないで、あとから勝手に抱えて」

言い返す言葉を探す。見つからない。

「別に・・・そんなこと」

「ほらね」被せられる。

「ママ、何も言わないで『分かってるでしょ?』って顔するの、ずっと無理」髪をクシャクシャにしながら。

胸の奥が動く。「・・・そんなつもりは」

「つもりじゃなくて、そうなってる」

言葉に詰まる。昨夜、ドアの前で止まった感覚が重なる。今朝、飲み込んだ言葉も。同じ動き。同じ止まり。

「ねえ、ちゃんと話してよ」テーブルを、指でトントン鳴らしている。

まっすぐ言われる。逃げ場がない。言葉を選ぶ。整える。・・・出てこない。沈黙。そのまま立ち尽くす。直美が息を吐く。

「やっぱりね」ボソッと言って、視線を外す。コーヒーを一口。

その瞬間、はっきり分かる。今までと同じことを、またやった。何も変わっていない。目の前で。「やっぱりね」と視線を外されたまま終わるはずだったのに、なぜか・・・。

崩れ

「・・・待って」と口に出してしまい、自分ながらに驚く。何を言おうとしているのか分からない。それでも、このまま引けばまた同じになると分かっているから、引けない。直美が振り返る。喉が詰まる。言葉が出ない。それでも、出す。

「・・・私、分かってるフリしてるかも」

言った瞬間、逃げていたことがはっきりする。直美の表情が変わる。

「やっと言った」なんとなく嬉しそう。

直美の一言で支えていたものが崩れる。何をどう言えばいいのか分からないまま、それでも止められない。

「うまく言えない。でも・・・ずっと避けてたと思う」整えられていない言葉が、そのまま出ていく。今までなら選んで、整えて、結局出さなかった言葉が、形にならないまま外に出る。初めてだと分かる。こんなふうに話すのは。

直美は何も言わない。ただ見ている。評価も否定もなく、そのまま受けている。その沈黙の中で、もう隠せないと分かる。このまま取り繕うことはできない。ここで止めたら、さっきと同じになる。

それでも、どう続ければいいのかは分からない。ただ1つだけはっきりしている。このやり方では、もう無理だということだけ。

投稿者:

RyuAnshin

Universal Flow Therapy 健創庵 龍 庵真(りゅうあんしん)と申します。
 少なくも20万人超の名前と向き合わさせていただいた経緯から、Google検索より速く解説できます。 統命思想というオリジナル事業を立ち上げ、天命に生きる方を輩出するために今を生きています。 絶対に目標達成したい方へ、未知の可能性を実感の自立具現化サポート。 
 
 15才で自衛官となり、出身地の長崎よりも首都圏での生活が2/3となりました。 
 私自身のセルフイメージが強烈に低く、どんなに素晴らしいことをしても、悪い意味でバランスをとるような出来事が起きていました。 マジメに生きようともがきつつも、運命の荒波に翻弄され続けた期間は、30年を超えます。 
 今まで一貫してお伝えしてきたのは、 本当の癒しは、ご自身にしかできません。 
 「自立具現化コーチング」という独自の理論により、 ・過去と未来を今ココに集約させ ・究極のパートナーからアドバイスを受ける ・本当に望んでいる思いを発信源に、過去の記憶を癒す 方法を編み出しました。 
 どうぞよろしくお願いいたします。

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