自分を語ってもいい〜藤堂富美子さん物語3

自分を語ってもいい〜藤堂富美子さん物語3

言葉にしてしまう恐怖

──コメント欄に返信が届いてから、何度もその文章を読み返している。

「『自分が崩れていく音』とはどういうことなんでしょう?よろしければ、ぜひお聴かせいただけませんか?」

何でもないような言葉。でも、どこまでも優しく鋭かった。読み返すたびに胸が詰まる。すぐに返事を書こうと思ったのに、できないでいる。言葉にならないのではない。言葉にしてしまうことが恐怖なのだ。

画面を閉じて、しばらく考えた。そして、ふと思い立ち、鏡の前に立った。

帯で整える芯

「そうだ、帯を結ぼう」

人と会う予定もない。誰に見せるわけでもない。でも今、私は自分自身のありようを整えたい。箪笥の奥にしまっていた淡い藍色の名古屋帯。軽やかながら芯のある一本。お気に入りの1つだ。

自分の手でゆっくり結んでいく。ひと結び、ひと呼吸。帯のひと巻きごとに、心が落ち着いていくのが分かる。

「私はまだ、言葉にならないものを抱えたままでいる」
「でも・・・それでも、伝えてみたいのかもしれない」
「このままでは絶対にダメだ。どうしても変わりたい。一歩を踏み出したい」

自分を語ってもいい

帯を締め終え、スマートフォンの画面を開く。メッセージ欄に、少しずつ言葉を綴り始めた。

ーーー

佐藤真紀子さん

コメントを読んでくださり、ありがとうございます。
あの一言に、どれだけ救われたか、うまく言えません。

「崩れていく音」というのは──
私の中にずっとあった型が、今、音を立てて壊れていっている感覚です。
それは恐怖でもありますが、どこかで「ようやく」という安堵も混じっています。

この歳になって、初めて「自分を語ってもいい」と思えた気がしています。
よろしければ、少しだけお話しさせていただけましたら嬉しいです。

ーーー

送信ボタンを押したあと、自分の姿を鏡で見た。久しぶりに、自分の顔が「私の顔」に見えた気がした。

毅然とした雰囲気と魅力

メッセージのやりとりから数日後、
「もしご都合よければ、一度だけZOOMでお話ししませんか?」
真紀子さんからの提案が届いた。

迷ったが、その迷いこそが「行くべき方向」だと、今回は思えた。

約束の午後。髪を軽く結い、帯を締め直し、画面の前に座る。

パソコンに映し出された真紀子さんの顔は、写真よりもずっと柔らかく、芯を持っていた。何があっても動じない、毅然とした雰囲気に、魅力に吸い込まれていく。

「初めまして。お会いできて嬉しいです」
「・・・こちらこそ。少し緊張していますけど、ありがとうございます」

2人とも微笑み、しばらく言葉がない。ながらも沈黙が気まずくないのは、久しぶりだ。

「崩れていく音・・・という表現が、とても印象的でした」真紀子さんから。

私は、小さく頷いた。ほんの少しずつ、語り始めた。

矛盾

「私は、舞にすべてを捧げてきた人間です。弟子たちには厳しくしてきましたし、娘にも・・・ずいぶんと、ですね。でも、自分は間違っていないという想いがどこかにあったんです」

「それが娘からの一言で、音を立てて崩れていって・・・もう、何を信じてきたのかも分からなくなってしまって。もう何をやってもうまくいかない気持ちが湧いてくるんです」

真紀子さんは、ただ、静かに頷いていた。傾聴という言葉の価値を、初めて体感できた。聴いていただけているという態度だけで、涙が込み上げそうになる。

「型に閉じ込めていたのは・・・・・、私自身だったのかもしれません。今までの私の生き方は、失敗でした。過ちに気づかず突っ走ってきたことを後悔しています」
「でも・・・、型にはめてきたからこそ私は私ではいられたんだと思います。・・・そんな矛盾を、今も抱えています」

「・・・矛盾を抱えたままでも、言葉にしてくださって、ありがとうございます」

真紀子さんがそう言った時、やっと「私は自分の話をしてもよかった」のだと気づいた。画面越しに深く頭を下げた。それを見た真紀子さんも、穏やかに微笑んだ。

#生き方
#娘
#傾聴
#命
#恐怖

投稿者:

RyuAnshin

Universal Flow Therapy 健創庵 龍 庵真(りゅうあんしん)と申します。
 少なくとも20万人超のお名前と向き合わさせていただいた経緯から、生き方より理想を創り出す「姓名承認マイスター」を広げています。 
 究極のセルフマネジメントで自立成長を応援。 絶対に目標達成したい方へ、未知の可能性を実感の理想具現化サポート。 
 
 15才で自衛官となり、出身地の長崎よりも首都圏での生活が2/3となりました。 
 私自身のセルフイメージが強烈に低く、どんなに素晴らしいことをしても、悪い意味でバランスをとるような出来事が起きていました。 マジメに生きようともがきつつも、運命の荒波に翻弄され続けた期間は、30年を超えます。 
 今まで一貫してお伝えしてきたのは、 本当の癒しは、ご自身にしかできません。 
 「立名コーチング」という独自の理論により、 ・過去と未来を今ココに集約させ ・理想とする未来のご自身からアドバイスを受ける ・理想とする未来のご自身を発信源に、過去の記憶を癒す 方法を編み出しました。 
 世界中にiPhoneレベルで 「理想の自分像って?」 を訊き合って認め讃え合えている感動世界を見るために、今を生きています。 
 どうぞよろしくお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.