
分からないままの変化
「お試しセッション」というが、特別なことをされた覚えもない。たわいのない会話だったはずだ。なのに、明らかにさっきまでと違う。
しばらく動けない。画面はもう暗い。通話は切れている。なのに、まだ何かが続いている感覚が残っている。何が起きたのか、説明できない。
胸のあたりが軽い。詰まっていたものが抜けたような、でも何が抜けたのか分からない。整理しようとする。どこから変わったのか、何がきっかけだったのか、順番に辿ろうとする。・・・追えない。途中で途切れる。
「何だったの?今の」口に出してみる。答えが出ない。というか、分からないままの方がしっくりくる。全く理解できていないのに、ビフォーアフターの違いだけがはっきりしている。その状態が、妙に現実味を持っている。
疑えない
キツネに化かされたみたいだ。ふと浮かんだ言葉に、苦笑する「キツネ・・・」。そんなはずはない。冷静に考えれば、ただのオンラインセッション。特別なことは何もない。理屈で説明できるはずだ。・・・できない。
おかしい。疑う材料はいくらでもある。疑う方が自然だ。なのに、その疑いが続かない。さっきまで強烈だったはずの「怪しい」という感覚が、暖簾に腕押し。確実にあるのに、どこか遠くにある。代わりに残っているのは、「もう一度確かめたい」という感覚。
信じているわけではない。納得もしていない。このまま終わらせるのは、あまりに不自然だ。スマートフォンを手に取る。さっきのやり取りがそのまま残っている。さっきの感覚が、まだ残っている。いったい何なのか、確かめずにはいられない。
メッセージを開く。何を書けばいいのか分からない。少し考えて、打つ。
「先ほどはありがとうございました。正直、何が起きたのかよく分かっていません」いったん止まる。消そうとする。整えようとする。・・・やめる。そのまま続ける。
「もう一度受けてみたいと思っています。特に『このままでは無理だ』と思っている理由を明確にしたいです」送る。
迷いのない送信
すぐには返ってこない。待つ。その間、また疑いが顔を出す。本当に大丈夫なのか?何をしているのか?冷静になれ。そう言い聞かせる声が浮かぶ。
もう1つの感覚が消えない。「このまま戻ったら、さっきと同じになる。」
しばらくして、返信。「分からないのが正常です。素晴らしいご決断ですね。直近のご都合はいかがでしょうか?」
余計な説明はない。その代わり、逃げ道もない。画面を見つめる。ここでまた止まる。選べる。やめてもいい。理由はいくらでもある。それでも、指が動く。
「お願いいたします」送信。
今度は迷いがない。送った後、ゆっくり息を吐く。まだ何も分かっていない。信じているわけでもない。それでも、確実に一歩進んでいる感覚だけがある。戻ろうと思えば戻れるはずなのに、なぜかその気が起きない。キツネに化かされたまま、進んでいる。