ゆでたまごのように
家に戻り、明かりをつける。いつもと同じ部屋のはずなのに、何かが違う。洗いざらい模様替えをしたい気分。
今日1日を思い返す。何かを頑張ったわけじゃない。特別なことを成し遂げた実感もない。それでも、はっきりしていることが1つだけある。
一度も「確認」をしていない。正しいかどうかも、誰かにどう思われるかも、この選択でいいのかも。何かに照らし合わせることなく、そのまま決めて、そのまま動いていた。なのに、不思議とズレていない。むしろ、これまでよりも静かに、1つひとつが噛み合っている。
——ああ、そういうことか。何を選ぶかじゃない。「どこから選んでいたか?」だったのだ。これまで私は、選び決める前に、どこかへ預けていた。確かめて、照らして、間違えないように。
でも今日は違った。肚で決めていた。最初から、私だった。胸の奥にずっとあった場所から、そのまま選び決めていた。たったそれだけのことなのに、1日が、まるごと変わっている。
「記念日」とも言えそうだが、名前をつけるほどのものじゃない。しかしもう戻らない気がする。タマゴからゆでたまごのように。
私は、もう——自分の枠外で選ぶことはない。「今の私に何ができるのか?」その問いだけは、外さずにいられる気がしている。
あり得なかったはずの会話

直美との夕食で、重い沈黙のあと、直美が口を開く。「別れたんだよね・・・」
「そう」さらに重い沈黙。直美の言葉を待つ。
「・・・・・なんかさ」
改めて姿勢を正す。
「・・・終わったはずなのに、全然終わってなくて」
間が空く。
「頭では分かってるのに、何をやってもどうにも収まらなくて」
視線が落ちる。「・・・どうしたらいいか、・・・分かんなくなって」
途切れ途切れの言葉。前なら、ここで埋めていた。正しく受け止めようとしていた。でも今は違う。待つ。急かさない。
「・・・だから、やった」。
「やった?あぁ、万引きのことね。」
「そう。もうどうでもよくなっちゃった、・・・っていうか」
言葉を探すように、視線が揺れる。涙が滲んできた。
「どうでもよくしないと、無理だった・・・・・・・・」
「・・・何はともあれ、話してくれてありがとう。つらかったわね」
「うん。・・・だけどもういいの。なんかふっきれたわ。・・・学校からの冷たい視線はあるけど、やり抜いてみるわ。」
「よかったわ。直美、生まれ変わったみたいね。今までと全然違うわよ」
「ママの方こそだよ。今までじゃ、こうやって話すなんてあり得なかったから」
コーヒーを淹れ直し、時間を忘れるほどの語らいとなった。