あり得なかったはずの会話〜堺歩美さん物語19

ゆでたまごのように

家に戻り、明かりをつける。いつもと同じ部屋のはずなのに、何かが違う。洗いざらい模様替えをしたい気分。

今日1日を思い返す。何かを頑張ったわけじゃない。特別なことを成し遂げた実感もない。それでも、はっきりしていることが1つだけある。

一度も「確認」をしていない。正しいかどうかも、誰かにどう思われるかも、この選択でいいのかも。何かに照らし合わせることなく、そのまま決めて、そのまま動いていた。なのに、不思議とズレていない。むしろ、これまでよりも静かに、1つひとつが噛み合っている。

——ああ、そういうことか。何を選ぶかじゃない。「どこから選んでいたか?」だったのだ。これまで私は、選び決める前に、どこかへ預けていた。確かめて、照らして、間違えないように。

でも今日は違った。肚で決めていた。最初から、私だった。胸の奥にずっとあった場所から、そのまま選び決めていた。たったそれだけのことなのに、1日が、まるごと変わっている。

「記念日」とも言えそうだが、名前をつけるほどのものじゃない。しかしもう戻らない気がする。タマゴからゆでたまごのように。

私は、もう——自分の枠外で選ぶことはない。「今の私に何ができるのか?」その問いだけは、外さずにいられる気がしている。

あり得なかったはずの会話

あり得なかったはずの会話〜堺歩美さん物語19

直美との夕食で、重い沈黙のあと、直美が口を開く。「別れたんだよね・・・」

「そう」さらに重い沈黙。直美の言葉を待つ。

「・・・・・なんかさ」

改めて姿勢を正す。

「・・・終わったはずなのに、全然終わってなくて」

間が空く。

「頭では分かってるのに、何をやってもどうにも収まらなくて」

視線が落ちる。「・・・どうしたらいいか、・・・分かんなくなって」

途切れ途切れの言葉。前なら、ここで埋めていた。正しく受け止めようとしていた。でも今は違う。待つ。急かさない。

「・・・だから、やった」。

「やった?あぁ、万引きのことね。」

「そう。もうどうでもよくなっちゃった、・・・っていうか」

言葉を探すように、視線が揺れる。涙が滲んできた。

「どうでもよくしないと、無理だった・・・・・・・・」

「・・・何はともあれ、話してくれてありがとう。つらかったわね」

「うん。・・・だけどもういいの。なんかふっきれたわ。・・・学校からの冷たい視線はあるけど、やり抜いてみるわ。」

「よかったわ。直美、生まれ変わったみたいね。今までと全然違うわよ」

「ママの方こそだよ。今までじゃ、こうやって話すなんてあり得なかったから」

コーヒーを淹れ直し、時間を忘れるほどの語らいとなった。

投稿者:

RyuAnshin

Universal Flow Therapy 健創庵 龍 庵真(りゅうあんしん)と申します。
 少なくも20万人超の名前と向き合わさせていただいた経緯から、Google検索より速く解説できます。 統命思想というオリジナル事業を立ち上げ、天命に生きる方を輩出するために今を生きています。 絶対に目標達成したい方へ、未知の可能性を実感の自立具現化サポート。 
 
 15才で自衛官となり、出身地の長崎よりも首都圏での生活が2/3となりました。 
 私自身のセルフイメージが強烈に低く、どんなに素晴らしいことをしても、悪い意味でバランスをとるような出来事が起きていました。 マジメに生きようともがきつつも、運命の荒波に翻弄され続けた期間は、30年を超えます。 
 今まで一貫してお伝えしてきたのは、 本当の癒しは、ご自身にしかできません。 
 「自立具現化コーチング」という独自の理論により、 ・過去と未来を今ココに集約させ ・究極のパートナーからアドバイスを受ける ・本当に望んでいる思いを発信源に、過去の記憶を癒す 方法を編み出しました。 
 どうぞよろしくお願いいたします。

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